Chapter 4-6:

デバイス補助療法(DAT)
~ 次ステージの治療 ~

この記事でわかること

    日本国内でパーキンソン病治療に利用できる下記の2種類のデバイス補助療法(DAT)

  • 脳深部刺激療法(DBS)
  • L-ドパ持続経腸療法(LCIG)


【前回のまとめと今回のテーマ】

前回は、パーキンソン病の治療の経過とともに訪れる「ハネムーン期」の終わりと、脳のドパミン貯蔵タンクが小さくなることで起こる「運動合併症(ウェアリング・オフやジスキネジア)」について確認しました。

今回は、そのような症状があらわれた時の選択肢の一つとなり得る「デバイス補助療法(DAT)」について見ていきましょう。

パーキンソン病になって長い年月が経過すると、お薬を飲む量を調整しても、体がスムーズに動かせなくなる、という話をしていたけど、覚えてる?
うん、覚えてるよ。
その時に、お薬を飲むだけじゃなくて、他にも使える治療法があるって言ってたよね。

そうだね。
口からお薬を飲むだけの治療には限界があるから、この段階からは『デバイス補助療法』っていう選択肢も視野に入ってくるんだ。
現在、日本で利用できるデバイス補助療法には、
・「脳深部刺激療法(DBS)」
・「L-ドパ持続経腸療法(LCIG)」
の2つがあるんだ。

難しい名前の治療法だね。どんなことをするの?
まず「脳深部刺激療法(DBS)」は、脳に電極を埋め込み微弱な電気を流して、乱れている脳の”ブレーキ信号”を整える治療なの。
電気の力で、過剰に強くなってしまった脳の『ブレーキ信号』を調整して、動きをなめらかにするの。
もう一つの「L-ドパ持続経腸療法(LCIG)」は、おなかに小さな穴をあけて、そこにチューブを通して、腸へ直接お薬を届ける方法なの。
ドパミンの元となるL-ドパというお薬の量を調整してポンプで持続的に流すから、ドパミンの濃度を安定させることができるの。
LCIG(L-ドパ持続経腸療法)では、脳内のドパミンの濃度の変化を小さくできるから、今まで飲んでいたよりも薬の量を減らせる可能性があるんだ。
でも、「脳に電気を流す」とか「おなかに穴をあける」とか聞くと、少し怖い気もするけど……。
怖いと感じるのは自然なことだよ。特にDBSは、脳の中に電極を入れる外科的な治療だから。
その一方で、薬が効きにくくなってきた人にとっては、症状の改善が期待できる治療法でもあるんだ。
ただ、デバイス補助療法を受けるかどうかは、すぐに決めれる人は少ないと思うんだ。お医者さんと相談しながら、期待できる効果やリスクをしっかり理解したうえで、自分に合っているかをじっくり考えていくことが大切なんだ。

DATの概要と背景

パーキンソン病の治療において、内服薬の長期使用に伴い出現する運動合併症(ウェアリング・オフやジスキネジア)に対し、従来の薬物療法ではコントロールが困難な場合、デバイスを用いた治療が検討されることもあります。

脳深部刺激療法(DBS)

脳深部刺激療法(DBS)は、脳内に細い電極を植え込み、電気刺激によって神経活動を調整する治療法です。
刺激のオン・オフや強さを調整できます。英語では Deep Brain Stimulation(DBS) と呼ばれます。

パーキンソン病では、患者さんの症状に合わせて、脳内で電気刺激を与える部位(ターゲット)を選択します。
代表的なターゲットは、視床下核(STN)淡蒼球内節(GPi)視床腹中間核(Vim)の3つです。

例えば、動作の遅さや筋肉のこわばり、薬の効き目の変動を改善したい場合と、ふるえを重点的に改善したい場合では、適したターゲットが異なります。そのため、症状に応じて脳内に電極を留置する位置も変わります。

DBSの個人差

DBS は多くの患者で有効ですが、効果には個人差があり、病気の進行に伴う姿勢保持障害や歩行障害、発話・嚥下などの症状には限界がある場合があります。
また、手術や刺激に伴う合併症(脳出血、感染など)、刺激による副作用(言語障害、気分変化、感覚異常など)、機器関連の問題に加え、MRI 撮影時に機器に応じた条件や制限が必要になる場合があります。
そのため、適応や手術時期については専門医と十分に相談して決めることが重要です。

L-ドパ持続経腸療法(LCIG)

胃ろうにより、ゲル状(ゼリー状)のL-ドパ/カルビドパ製剤を専用ポンプで持続投与する方法です。L-ドパ/カルビドパ製剤の血中濃度を安定させることで、内服薬では制御が難しい日内変動を改善します。
これにより、薬の効果が切れる「ウェアリング・オフ」や、意思に反して体が動く「ジスキネジア」を緩和します。
英語では、Levodopa/Carbidopa Intestinal Gel、略してLCIGと呼ばれることもあります。

※胃ろう:腹部に小さな穴を開け、カテーテル(チューブ)を通して直接胃に薬を補給する医療行為

【参考】破壊術からDATへの進化

パーキンソン病に対する外科的手術は、L-ドパが治療薬として登場する以前から行われていた長い歴史があります。

  • かつての主流「破壊術」:
    以前は、脳の特定の部位(視床、淡蒼球、視床下核など)を熱などで焼き切る破壊術が広く行われていました。これは、過剰に強まってしまった脳の「ブレーキ信号」を部分的に遮断し、手の震えや体のこわばりを抑えて、スムーズな動きを取り戻すことを目的としたものでした。しかし、破壊術は一度施術すると元に戻すことができない「非可逆的」な治療であるという大きな課題がありました。

  • DAT(機器を用いた治療)への進化:
    現代では、破壊術に代わってDBS(脳深部刺激療法)やL-ドパ持続経腸療法(LCIG)といった、医療機器を用いる治療法(DAT)が主流となっています。
  • 進化した点:
    DATは破壊術とは異なり、脳の組織を傷つけないため、いつでも元の状態に戻したり別の治療へ切り替えたりできる「可逆的」な治療です。さらに、患者さんのその時々の病状や薬の効き方の変化に合わせて、後から機器の設定(電気刺激の強さや、お薬の注入量など)を「最適に調節できる」点が、かつての破壊術からの決定的な進化といえます。

なるほど。お薬を「飲む」以外の方法で、脳を助けてあげる仕組みなんだね。
その通り。どの治療がベストかは、年齢や生活スタイル、そして何よりも「患者さんご本人が何を一番大切にしたいか」によって変わってくるんだよ。
こうした高度な治療と並行して、どんなステージの患者さんにも絶対に欠かせないのが「体を動かすこと」なの。
次回は、パーキンソン病治療のもう一つの柱である『リハビリテーション』について、話をしよう。

ポイント:デバイス補助療法(DAT)

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    口から飲むお薬だけでは、効果の波を抑えられなくなった段階(進行期)で検討するのがデバイス補助療法(DAT)です。
    医療機器を使って24時間体制で脳の乱れを整え、症状を一日中安定させることを目的としています。
    具体的には、以下の2つの療法があります。

  • 脳深部刺激療法(DBS)
    脳に細い電極を植え込み、弱い電気刺激を送り続けて、脳内の「ブレーキ信号」の乱れを整える手術療法です。
  • L-ドパ持続経腸療法(LCIG)
    お腹に小さな穴を開け、小腸までチューブを通し、そこからジェル状のドパミン製剤を24時間途切れなく直接腸に送り続ける治療法です。
※本サイトは情報提供を目的としています。実際の診断や治療は専門の医療機関にご相談下さい。

参考文献 (References)

  1. 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018

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