ハネムーン期から進行期へ
この記事でわかること
- 治療初期(ハネムーン期)と進行期の薬の効き方の違い
- 進行期に運動合併症(ウェアリング・オフ、ジスキネジア)が現れる理由
【前回のまとめと今回のテーマ】
前回は、パーキンソン病のお薬の「調整の基本原則」や、将来を見据えた治療戦略などについて確認しました。
今回は、治療を数年、十数年と長く続けていく中で、多くの患者さんが直面する「お薬の効き方の変化」……いわば治療の第二ステージにおける課題と、その向き合い方について、見ていきましょう。
そのことを詳しく教えて。
実はパーキンソン病の治療には、お薬が良く効いて、病気になる前とほとんど変わらない生活が送れる「ハネムーン期」という時期があるんだよ。
脳がドパミンを溜めておく力が少なくなり、それまでのように薬が効かなくなってくるの。
こういう症状が出ると、「この先どうなるんだろう」と不安を感じてしまうと思うんだ。
ただ、そういう時は、一人で抱え込まずに、その変化を主治医に伝え、今の状態に適した病気との「新しい付き合い方」を、一緒に見つけていくことが大切なんだ。
ハネムーン期と進行期
パーキンソン病、特にL-ドパ製剤による治療経過には、脳内のドパミン貯蔵能力の変化に伴う2つのフェーズがあります。
ハネムーン期
治療開始から数年(一般的に3〜5年程度)は、L-ドパの効果が長時間安定して持続する時期です。
※ハネムーン期が続く期間には個人差があります。
- 安定のメカニズム:
脳内のドパミン神経末端に、ドパミンを溜めておくタンクがありその「貯蔵能力」が十分に残っています。服用したL-ドパがドパミンに変換されたのちに、一度タンクに貯蔵され、少しずつ放出されるため、効果が維持されます。 - 臨床的な特徴:
適切にお薬を服用することで、症状を長時間良好にコントロールすることができます。
進行期
パーキンソン病の進行に伴い、脳内のドパミン神経細胞の量が少なくなっていくと、取り込んだドパミンを溜めておくタンクの「貯蔵能力」が低下します。このため、L-ドパを服用すると、生成されたドパミンが一気に脳内に放出され、短時間で使い切られてしまいます。
- ウェアリング・オフ:
L-ドパの効果持続時間が短縮し、次の服薬前に症状が再燃する現象です。運動症状だけでなく、痛みや不安などの非運動症状として現れることもあります。 - ジスキネジア:
薬が効いている時間帯に、本人の意思に反して手足など体が勝手に動いてしまいます。
『大脳基底核ループの概要』の節、『大脳基底核ループの詳細』の節で学んだように、大脳基底核ループが正常に機能している場合は、適切なタイミングで適量のドパミンが線条体に放出されます。
しかし、ドパミンの「貯蔵タンク」が小さくなった状態でL-ドパを服用すると、一時的に脳内のドパミン濃度が過剰に高まります。この時、大脳基底核ループでは以下のようなことが起きています。
-
直接路(アクセル)の暴走:
大量のドパミンが直接路を刺激し続け、特定の動作だけでなく、本来不要な動作案まで次々と「実行許可」が出てしまいます。 -
間接路(ブレーキ)の麻痺:
ドパミンは間接路の働きを抑える性質があります。ドパミンが多すぎると、不要な動きを止めるためのブレーキ役が休み込んでしまいます。
つまり、本来採用されるべき動作案以外にも実行許可が出ており、ブレーキもかかっていない状態になり、自分の意思とは関係なく体が勝手にクネクネと動いてしまうのがジスキネジアの正体です。
この「ちょうど良いドパミンの量」をいかに維持するかが、パーキンソン病治療のとても難しく、そして大切なポイントなの。
そこで登場するのが、お薬を途切れなく体に送り続けたり、脳の電気信号を整えたりする「デバイス療法」という選択肢。
次は、このお薬の波を抑えるための、新しい治療の仕組みを見ていこう。
ポイント:ハネムーン期から進行期へ
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ハネムーン期(治療初期)
脳内に一定量のドパミン神経細胞がまだ残っているため、ドパミンを留める力が働き、薬の効果が安定して長く続く期間です。 -
進行期の二大症状(運動合併症)
お薬の効果が切れる「ウェアリング・オフ」と、効きすぎて勝手に動く「ジスキネジア」。脳内のドパミンを留める力が低下してくると、これらの運動合併症があらわれてきます。