Chapter 1:

パーキンソン病とは

この記事でわかること

  • パーキンソン病の発症要因と、それにかかわる脳内物質「ドパミン」の役割
  • 高齢期におけるパーキンソン病発症リスク増加や世界的な患者数急増の現状
  • 日常生活に影響を及ぼす「運動機能」と「認知機能」の具体的な低下症状


【プロローグ】

クリニックの午後の診療は休診。
院長の司先生と看護師の結さんは、数日後に控えた学会発表の準備を終え、コーヒーを手に一息ついていました。

そこへ、学校帰りの光くんが、いつものように立ち寄りました。

ただいま! また遊びに来たよ。
光くん、おかえり。今日は早かったんだね。
お疲れ様、光くん。今、冷たい飲み物を出してあげるわね。

三人が揃い、一息ついたその時。テレビから、あるニュースが流れてきました。

「──続いてのニュースです。
iPS細胞を用いたパーキンソン病の治験において、安全性と臨床的有益性が示唆される結果が確認されました。」

あ、iPS細胞だ。このあいだこども新聞で読んだぞ。
いろんな細胞に変身できるすごい細胞なんだよね。
光くん、新聞で見たの?
難しい言葉、よく覚えてるね。
うん! iPS細胞は知ってるよ。
でも、『パーキンソン病』って、初めて聞くなぁ。
いったいどんな病気なの?
パーキンソン病は、私たちの『脳』に深く関係している病気なんだ。
脳? 僕たちの頭の中の?
そう。光くんが走ったり、ジャンプしたりできるのは、脳が『動けー!』って指示を出してるからなんだけど、それだけでは体は動かないの。
そうなの?
体を動かすには、脳の指令を体に伝える必要があるんだ。
この指令の伝達経路にはゲートがあって、通過するためにはそのゲートの『鍵』が必要なんだ。
パーキンソン病は、この『鍵』の役割をする物質が不足してしまうことで、脳が出した指令が伝わらなくなる病気なんだよ。
そうなんだ。
パーキンソン病って初めて聞く名前だな。珍しい病気なんでしょ?
いや、そうとは言えないんだ。
パーキンソン病は高齢者の発症率が高くて、
65歳以上では100人に1人がこの病気を抱えている
この病気は、
身近な人がかかっていてもおかしくない、
自分自身が将来かからないとも断言できない、
決して他人事ではない病気なんだ。

パーキンソン病の原因

脳内には、大脳からの指令を通すか止めるかを調整する「ゲート(門)」のような仕組みがあります。このゲートを開ける「鍵」の役割を果たしているのが、ドパミンという神経伝達物質です。

通常、脳の深いところにある「黒質(こくしつ)」という場所で、この鍵(ドパミン)が絶え間なく作られています。十分な鍵があるおかげで、ゲートは適切に開き、大脳からの指令がスムーズに体に伝わります。私たちが無意識に、滑らかに体を動かせるのはこのおかげです。

このドパミンの工場である黒質の神経細胞が徐々に減少(死滅)していくとパーキンソン病を発症します

工場が小さくなっていくと、脳内の鍵(ドパミン)の量が足りなくなります。その結果、「ゲートが開かない」状態になり、大脳が「動け!」と命令を出しても、その指令が筋肉までうまく伝わらなくなってしまいます。これが、パーキンソン病の方が体を思い通りに動かせなくなる原因です。


※パーキンソン病の病態は複雑で様々な症例があり、上記のドパミン減少による運動機能の低下は、数ある症例の中の代表例です。

パーキンソン病の発症

  • 年をとると「100人に1人」のリスク:
    パーキンソン病の患者数は、日本国内の平均では1000人につき1人~2人程度です。しかし、高齢者になるとその割合が増え、65歳を過ぎると約100人に1人程度と言われています。あなたの身近な誰かが、あるいは自分自身が直面しないとは断言できない確率です。

  • 65歳以上で100人に1人が発症するパーキンソン病の有病率のイメージ

  • 世界的な急増(パーキンソン・パンデミック):
    高齢化や診断技術の向上によって、この20年間で患者数は2倍以上に増加しています。
    その急増ぶりから、専門家の間では世界で最も増えている神経疾患の1つとして、「パンデミック(爆発的な広がり)」と表現して警鐘を鳴らす動きもあるほど、現代社会の深刻な課題となっています。

  • 働き盛りで発症することも:
    パーキンソン病は高齢者だけの病気ではありません。発症率は高齢者ほど高くはないものの、40代、時にはそれ以下の「働き盛り」で発症する『若年性(じゃくねんせい)』の患者さんもいます。仕事や家庭生活への影響が大きい中で、それでも前を向いて闘い続けています。

パーキンソン病の症状

運動機能が低下します。同時に認知機能の低下も見られます。
※患者さんごとに症状の現れ方は異なります。

  • 運動機能低下:
    動作が緩慢になったり、細かい作業ができなくなったりします。
    【日常生活への影響】

    • 歩幅が狭くなる、すり足になる、ふらつく。
    • 歩き出そうとしても一歩目が出ない。
    • 力が入りっぱなしになる。
    • 震えが止まらない。
    • 細かい作業ができない
    • 顔の表情が乏しくなる
    • 声が小さくなる
  • 認知機能低下:
    注意・記憶・遂行機能(計画・判断・切替)が低下します。
    【日常生活への影響】

    • 複数作業が同時に進められない
    • 計画が立てられない
    • 意欲が低下する、無関心になる。

65歳以上だと100人に1人!?……。
ニュースの中の遠い話じゃなくて、僕が今日すれ違った人の中にも、この病気の人がいるかもしれないんだね。
そうだね。そしてこの病気は、脳が体に「動け!」という指令を出すプロセスがうまくいかなくなることが大きな特徴なんだ。
脳からうまく指令が出せない……。それって、脳から筋肉までのどこかで指示が途切れるってこと?
単純に途切れるというより、脳の深いところで「どの動きを採用するか」が決まらなくなってしまうんだよ。
ある動作をするとき、脳の中では無数の動きの候補が競い合っている。
実はその中から有望な候補を選ぶ「オーディション」が、一瞬の間に行われているんだ。
えっ! オーディション!? 僕は何も考えてないつもりだけど……。
脳って、体を動かすときに一体どんなことをしているの?
パーキンソン病の話に入る前に、まずは健康な脳の仕組みを知る必要がありそうね。
次回にその話をしましょう!

ポイント:パーキンソン病とは

サマリ装飾イラスト

  • パーキンソン病の発症
    パーキンソン病は、脳の深い位置にある「黒質(こくしつ)」という部位の神経細胞が徐々に減少(死滅)していくことで発症します。
    この黒質の細胞は、神経伝達物質であるドパミンを生成する重要な役割を担っています。
    ドパミンが不足すると、脳内の情報伝達に支障をきたすようになり、様々な症状が現れてきます。
  • パーキンソン病の主な症状
    震えや動作緩慢などの運動症状に加え、判断力の低下や意欲減退といった認知・精神面にも影響が現れます。
    ※患者さんごとに症状の現れ方は異なります。
  • パーキンソン病の発症リスク
    国内での、パーキンソン病の発症率は、平均では1000人につき1人~2人程度ですが、65歳以上では約100人に1人が発症しています。
    世界的にも高齢化・診断精度の向上により20年で患者数は2倍以上に急増しています。
※本サイトは情報提供を目的としています。実際の診断や治療は専門の医療機関にご相談下さい。

参考文献 (References)

  1. パーキンソン病診療ガイドライン2018、日本神経学会
  2. Dorsey, E. R., et al. (2018). “Ending Parkinson’s Disease.”(パーキンソン病急増に関する世界的知見)

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