Chapter 3-3:

パーキンソン病の非運動症状

この記事でわかること

  • パーキンソン病により発症する可能性のある様々な「非運動症状」の種類
  • 運動症状が始まる数年〜十数年も前から体に出る可能性のある代表的な前兆
  • 発症する症状が、運動面だけでなく、睡眠、内臓、気持ちにまで影響を与える理由


【前回のまとめと今回のテーマ】
前回は、パーキンソン病によりあらわれる無動・振戦・筋強剛などの運動症状と、脳全体のネットワーク変性が関わる全身性疾患としての側面を確認しました。

今回は、思考や意欲への影響、自律神経の乱れや、睡眠トラブルなど、周囲から気づかれにくいパーキンソン病の「非運動症状」について見ていきましょう。

「運動症状」っていうのは、手が震えたり歩きにくかったりすることだよね。
「非運動症状」ってことは……体に現れる動き以外のトラブルってこと?
その通りよ。パーキンソン病は「動きの病気」と思われがちだけど、実は自律神経の乱れや、気持ちの変化、眠りのトラブルなど、目に見えにくい症状もたくさんあるの。
実は、運動症状が出るよりもずっと前から、これらの非運動症状が「前兆」として現れていることも多いんだよ。
周囲からは気づかれにくい分、本人が一人で悩んでしまうことも少なくないんだ。

パーキンソン病の多彩な非運動症状

パーキンソン病は、目に見える「動き」のトラブル(運動症状)だけでなく、心や思考、内臓の働き、睡眠など、多岐にわたる「非運動症状」が現れます。これらは周囲からは気づかれにくいですが、患者さんの生活の質に非常に大きな影響を与えます。

精神・認知症状(心と思考の症状)

思考の回転や感情の動きに「ブレーキ」がかかったり、認識が誤作動したりする症状です。

  • 思考緩慢:
    判断や決断に時間を要します(思考の無動)。複雑な計画を立てるのが難しくなります。
  • アパシー(意欲低下):
    物事への興味や関心が薄れ、自分から何かをしようとする気力がわかなくなります(心の無動)。
  • 抑うつ・不安:
    理由もなく気分が沈んだり、過度に心配になったりします。
  • 幻視:
    実際にはいない人や動物、虫などが、ありありと見える症状です。

自律神経に関わる症状(内臓や血圧の症状)

無意識に行われている内臓の調節や血圧のコントロールがうまくいかなくなる症状です。

  • 便秘:
    最も頻度の高い症状の一つです。運動症状が出る10年以上前から現れることもあります。
  • 起立性低血圧:
    立ち上がった時に血圧が下がり、立ちくらみやふらつきを起こします。
  • 排尿障害:
    トイレが近くなる(頻尿)や我慢できない(尿失禁)、尿が出にくくなる症状がみられます。

感覚・睡眠障害(五感と眠りの症状)

五感の認識や、睡眠中の筋肉のコントロールに影響が出ます。

  • 日中過眠:
    夜間に眠れているかに関わらず、日中に強い眠気に襲われる症状です。病気による睡眠調節のトラブルだけでなく、治療薬による副作用で起こることもあります。
    ※前触れなく突然眠り込む「突発的睡眠」は、車の運転中などに起こると危険なため注意が必要です。
  • 疲労(疲れやすさ):
    患者さんの4〜6割にみられる非常に頻度の高い症状です。「何をするにも元気が出ない」「すぐに電池が切れたように疲れる」といった感覚が特徴です。これは単なる怠けや気力の問題ではなく、病気そのものの症状(中枢性疲労)として現れます。
  • 嗅覚障害:
    匂いがわからなくなったり、鈍くなったりします。早期からみられる非常に特徴的なサインです。
  • レム睡眠行動異常症:
    夢の内容に合わせて大声を上げたり、激しく手足を動かしたり(寝相が極端に悪くなる)します。
  • 痛み・しびれ:
    肩こりや腰痛、手足のしびれなどが現れることがあります。
運動症状よりも先に現れる「前兆」

以下の症状は、手の震えなどの運動症状が現れる数年〜十数年以上前から現れることがあり、早期発見の重要な手がかりとなります。

  • 便秘(自律神経)
  • 嗅覚障害(感覚障害)
  • レム睡眠行動異常症(睡眠障害)

パーキンソン病は「体が動きにくくなる病気」と思われがちですが、実はそれだけではありません。「心が動かない(意欲が出ない・落ち込む)」といった精神面の変化や、「眠れない」という睡眠のトラブルも、この病気のとても重要な症状の一部です。
非運動症状は「目に見えない」ため周囲から理解されにくいですが、患者さん自身の負担は非常に大きいものです。
これらの変化も病気によるものだと、正しく理解しておくことが大切です。

非運動症状の発生メカニズム

非運動症状のメカニズムは、ドパミン不足による「脳内回路のブレーキ」と、病変が脳や全身へ広がる「広域的なシステムエラー」の2つの側面から理解できます。

病変の広がり(Braak仮説)

異常タンパク質(αシヌクレイン)が、ドパミン神経(中脳)に到達する前の段階で、他の部位を破壊するために起こります。

  • 侵入(嗅球・腸管):
    鼻や腸から病変が始まります。これが運動症状よりずっと前の「嗅覚障害」や「便秘」の原因です。
  • 上昇(脳幹):
    病変が脳幹を上がっていく過程で、眠りのスイッチを破壊し、「レム睡眠行動異常症」や「日中過眠(脳の覚醒維持トラブル)」を引き起こします。
  • 到達(中脳以降):
    中脳に届いて初めて「運動症状」が出ますが、その先の大脳皮質まで広がると、強い「幻視」や「認知機能低下」が起こります。

大脳基底核ループのGOサイン/ブレーキ解除の欠如

動きの大脳基底核ループで起こっているのと同様のことが、脳の「思考」や「感情」のループでも起きている状態です。

  • 認知ループの停止:
    判断や計画を司る回路にドパミンが不足し、思考にブレーキがかかります。これが「判断の遅れ(思考緩慢)」を招きます。
  • 情動ループの停止:
    意欲や報酬を感じる回路のGOが出にくくなります。これが「やる気が出ない(アパシー)」の本態です。
  • 活気の不足(身体的疲労):
    ドパミンは活動の「活力」を支えるため、不足すると動いた後の回復に時間がかかるような「身体的な疲れやすさ」に直結します。

ドパミン以外の神経伝達物質の減少

ドパミン以外のメッセンジャー(司令塔(大脳皮質)から出た指令を伝えるために必要となる物質)が不足することで発生する症状があります。

  • アセチルコリン不足: 脳の画像処理や記憶に重要です。これが足りなくなると、情報の解釈ミスによる「幻視」が起こりやすくなります。
  • セロトニン・ノルアドレナリン不足: 感情の安定に関わります。不足により「抑うつ」や「不安」が引き起こされます。

パーキンソン病は、ドパミンが不足して体が動かしにくくなるだけの病気ではありません。脳と全身のいたるところで複雑なシステムの不調が起きている病気です。

※パーキンソン病の症状の現れ方は、一人ひとり大きく異なります。

匂いがわからなくなったり、寝相が激しくなったりするのも、パーキンソン病の関係があるかもしれないんだね。
ただの体調不良だと思っちゃいそう……。
そうね。でも、これらの症状を早めに先生に相談することで、お薬の調整や生活の工夫で改善できることもたくさんあるのよ。
まさにその通り。運動症状と非運動症状、この両面を理解してケアしていくことが、パーキンソン病と共に前向きに生きていくための鍵になるんだ。
さて、症状については一通り学んだね。次回からは、パーキンソン病の対処療法について見ていこう。

ポイント:パーキンソン病の非運動症状

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  • 多様な非運動症状
    便秘や立ちくらみなどの自律神経症状、抑うつや不安などの精神症状、睡眠トラブルなど、目に見えない症状が全身に現れます。
    ※パーキンソン病の症状の現れ方は、一人ひとり大きく異なります。

  • 運動症状に先駆ける「前兆」
    嗅覚障害や便秘、レム睡眠行動異常症などは、手の震えなどの運動症状が出る数年前から現れることがあります。
  • 生活の質(QOL)への影響
    非運動症状は患者さんの精神的・身体的な大きな負担となります。これらを適切に管理することが治療において非常に重要です。
※本サイトは情報提供を目的としています。実際の診断や治療は専門の医療機関にご相談下さい。

参考文献 (References)

  1. 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
  2. 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)

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