Chapter 3-2:

パーキンソン病の運動症状

この記事でわかること

  • パーキンソン病の三大症状をはじめとした多様な運動症状と、初期から見られる「左右差」の特徴
  • 代表的な原因であるドパミン不足だけでなく、それ以外の原因も複雑に絡み合って症状が現れること
  • 異常タンパク質の蓄積が進行とともに脳全体へ広がる全身性疾患としての性質


【前回のまとめと今回のテーマ】
前回は、ドパミン細胞が減少していくメカニズムや、嗅覚低下などの「予兆」について確認しました。

今回は、パーキンソン病の代表的な運動症状や、その症状が起こる仕組みについて詳しく見ていきましょう。

パーキンソン病になる以前から脳の中でドパミンの細胞が壊れていくっていうのはわかったけど……。
それって、本人は気づくのかな? 細胞が壊れるときって、頭が痛くなったりするの?
いいえ、頭痛のような「痛み」は出ないの。
「なんだか体が自分のものではないみたいで、思った通りに動かない」といった、不思議な感覚を抱くことから始まることが多いのではないかしら。
「手先が最近ちょっと不器用になった」とか、「どこも痛くないのに片足だけ引きずるような歩き方になってしまう」といった、ちょっとした違和感から始まる方が多い印象ね。
その「片方の足」というのも、実はパーキンソン病の大きな特徴の一つなんだよ。
症状が左右同時に出るのではなく、最初は「右半分だけ」あるいは「左半分だけ」と、どちらか片方から現れることが多いんだ。
具体的にどんな運動のトラブルが起きてくるのか?
パーキンソン病を代表する運動症状を、一緒に見ていこうか。

1⃣ パーキンソン病の代表的な運動症状

パーキンソン病の代表的な運動症状は、
『無動』、『振戦』、『筋強剛』で、これらを三大症状と呼ぶことがあります。
また、三大症状に『姿勢保持障害』を加えて四大症状と、
さらに、四大症状に『前傾姿勢』と『すくみ現象』を加えて六大症状と、
呼ぶこともあります。

主な運動症状の詳細は以下の通りです。

無動 / 運動緩慢

全体的に動きが少なくなる「運動減少」、動き出しが遅れる「開始遅延」、動作そのものが遅くなる「運動緩慢」がみられます。

  • すり足:
    歩行時に足が上がりにくく、地面を擦るように歩く。
  • 小字症しょうじしょう
    文字を書いていると、だんだん小さくなる。
  • 仮面様顔貌かめんようがんぼう
    まばたきが減り、顔の表情が乏しくなる。
  • その他:
    声が小さく不明瞭になる、寝返りが困難になる。

といった症状が含まれます。

振戦

体が勝手に震えます。典型的には1秒間に4〜6回程度規則的に震えます。
この「震え」は、じっとしている時に目立ちますが、精神的に緊張したり、何かに集中して頭を使ったりする(脳に負荷がかかる)ときに強まるという特徴があります。一方で、睡眠中には完全に消失します。

筋強剛

意図せず筋肉に常に力が入りっぱなしになります。関節を他動的に動かした際には、筋肉の緊張が高まって抵抗を感じます 。

すくみ現象

動作の開始時や途中で、まるで体が固まったように動けなくなってしまう現象です。この症状は足だけでなく、手や声にも現れます。

  • すくみ足:
    歩き出そうとしても足が地面に張り付いたようになります。歩き始め、方向転換、狭い通路の通過、目標地点の直前などで特に起こりやすく、転倒の大きな原因となります。
  • 歩行以外での出現:
    だけでなく、発語(話し方)手指のタップ運動などにおいても、動作が突然止まってしまう「すくみ」が生じることがあります。
  • 心理的影響と矛盾性運動:
    急かされたり緊張したりする場面で悪化しやすい一方、床に引かれた線(視覚刺激)をまたいだり、メトロノームのリズム(聴覚刺激)に合わせたりするとスムーズに動けるようになる「矛盾性運動(奇異性歩行)」という特徴が知られています。

姿勢保持障害

体のバランスを保つことが困難になる症状です。病初期にみられることはほとんどなく、病気の進行に従って出現してきます。
立っているときに外力を加えると、押された方向に足が出ずにそのまま転倒しやすくなります。

姿勢異常

立っているときや歩くときに、体幹を曲げてしまう独特の姿勢がみられ、進行とともに悪化する傾向があります。

  • 前傾姿勢:
    背中が曲がるだけでなく、頸部が前屈し、肘や膝も軽く曲げた独特の構えになります。
  • 特殊な姿勢異常:
    極端に腰が曲がる、体が左右どちらかに傾く、頭が下がってしまう、などといった体勢になってしまいます。
重要なポイント

これらの症状(特に振戦、無動、筋強剛)の大きな特徴として、多くの患者で左右差が認められ、その左右差は病歴を通じて変わらないことが多いです。

2⃣ 運動症状の発生メカニズム

パーキンソン病の運動症状は、単一の仕組みだけで起こるのではなく、病気の進行とともに脳内のさまざまな領域や神経伝達物質が関与することで、その姿を変えていきます。症状が発生するメカニズムを整理して解説します

ドパミン・大脳基底核に関与する症状

脳内の「ドパミン」が不足し、脳内の運動調節ループにおいて「GO」の指令が出にくくなり、運動のブレーキが解除できないことにより生じる症状です。

  • 無動(運動緩慢):
    動きが遅くなる、小さくなる症状です。
  • 筋強剛(筋固縮):
    筋肉がこわばり、スムーズに動かせなくなる症状です。

非ドパミン・大脳基底核外に関与する症状

パーキンソン病は「ドパミンが減る」ことに注目されがちですが、実はそれだけではありません。脳内のさまざまな神経系(系統)が同時にダメージを受け様々な症状が出ます。

  • 振戦(ふるえ):
    振戦は主要な運動症状ですが、実はそのメカニズムは完全には解明されていません。
    無動や歩行障害の重症度はドパミン神経の減少度と相関しますが、振戦の重症度は必ずしもドパミンの減少度と相関しないことが報告されています。
    このため、大脳基底核ループ以外の神経回路も振戦の発現に関わっている可能性が示唆されています。
  • 姿勢保持障害:
    体のバランスを保てず転びやすくなる症状です。これはドパミン以外の神経系や、より広範な脳のネットワークの障害が影響しています。
  • すくみ足:
    お薬が効いている時間帯(オン期)にもかかわらず足がすくむこともあります。そのため、非ドパミン系の関与が推察されています。
  • 姿勢異常:
    腰曲がりや首下がりなどは、筋強剛(ドパミン由来)だけでなく、姿勢を制御する感覚の障害や脳内ネットワークの異常が複雑に絡み合っています。
重要なポイント

これらの多様な原因の背景には、αシヌクレインという異常なタンパク質の蓄積があります。この蓄積は中脳の黒質(ドパミンを生成する部位)だけにとどまらず、脳幹の他の部位や自律神経、さらには大脳皮質へと広がっていきます。

  • 初期: ドパミン細胞の障害がメインで、無動などの典型的な症状が出ます。
  • 進行期: 障害が他の神経系に広がることで、歩行障害やバランス障害、さらには非運動症状(認知機能障害や自律神経症状)が目立つようになります。

パーキンソン病の根本に「ドパミン不足」という大きな要因があります。ただ、最近の研究では、ドパミン以外の「脳内の様々なメッセンジャー(神経伝達物質)」も同時に減っていくことがわかっています。
つまり、パーキンソン病は、脳の特定部位(線条体)におけるドパミン欠乏という側面だけにとどまらず、脳や神経のネットワーク全体がゆっくりと劣化していく「全身的な疾患」としての性質をもっています。

なるほど。パーキンソン病の多くの症状がドパミン不足によって起こっているんだね。
ただ、ドパミンだけじゃなくて、脳全体のネットワークの調子が狂っちゃうから、色々な症状が出てくるんだ。
運動だけでも様々な症状が出るけど、パーキンソン病の症状は「運動」だけにはとどまらないの。
その通り。以前学んだように、大脳基底核のループは「運動」だけでなく、「判断」や「感情」のコントロールにも深く関わっていたよね。だからドパミンが減ると、心や考え方にも影響が出てくるんだよ。
つまり、パーキンソン病が影響を及ぼすのは、目に見える体の「動き」だけではないということだね。次は、周囲からは少し気づかれにくい「非運動症状」について解説していこうか。

ポイント:パーキンソン病の運動症状

サマリ装飾イラスト

  • 初期症状と左右差
    初期症状は「体が思い通りに動かない」等の違和感や不器用さから始まることが多いです。 一般的に痛みは伴いません。
    また、症状が左右どちらか片側から現れる「左右差」が大きな特徴です。
  • パーキンソン病の主な運動症状
    三大症状(無動・振戦・筋強剛)に加え、姿勢保持障害やすくみ足、姿勢異常など、進行に伴い多彩な症状が現れます。
    ※症状の現れ方は、患者さん毎に異なります。
  • ドパミン不足以外の要因も絡む
    主要因はドパミン不足ですが、他の神経伝達物質の減少や脳全体のネットワーク変性が関わる「全身性疾患」です。
※本サイトは情報提供を目的としています。実際の診断や治療は専門の医療機関にご相談下さい。

参考文献 (References)

  1. 日本神経学会:パーキンソン病診療ガイドライン2018
  2. 難病情報センター:パーキンソン病(指定難病6)
  3. 厚生労働省のパーキンソン病解説資料

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